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窓から見下ろす景色は単調で優しい。
いつもの顔触れがのんびりと、緑溢れる中庭をゆっくりと行き来する。
僕はそんな光景を眺めながら、ぼんやりとしたまま自分の足へ視線を落とした。
全治半年。もしかすると後遺症が残るとも言われた、僕の足。
固くギプスに覆われて。自分のものの筈なのに、動かす事も触れる事も出来ない。
贅沢か、トラックとぶつかって生きていられただけ上等だ。
それでも、毎日毎日単調な景色の中で単調な生活を送るのは苦痛が伴った。
ゆっくりと、確実に。
僕の中から色々なモノが抜け落ちていっていた。
もしかすると病院の持つ独特の雰囲気がそうさせるのかも知れない。
この生活を初めてから3ヶ月と少し、僕は漠然とだけど。
死んだ方が幸せだったかも知れないと思い始めていた。
実行に移せないのは分かっている、自分一人じゃ身動きすら取れない僕だ。死に繋がる危険なものも置いてやしない。
単調な毎日の中、僕はふっと真夜中に目を覚ました。
消灯時間はとっくに過ぎていたけど、窓の外からは煌々と明かりが入って来ている。
昼間いつもそうする様に、腕だけでグッと窓に近付き景色を見下ろすと。どうやら昼間は目立たなかった自動販売機の明かりらしい。
それと、自動販売機の前にポツンと佇む女の子。病室を抜け出して来たんだろうか、その子も入院着姿だった。
彼女はしばらくぼんやりと自動販売機を眺めていたが、不意に僕の方へと視線を上げた。
横から自動販売機に照らされた彼女は、とても綺麗な子だった。
病院生活が長いのか、白い光に照らされて更に白く映る肌。つやつやと光を浴びて輝く長くて黒い髪だとか。
僕を見上げる目は優しげに細められて。ふんわりと笑っている彼女は、学校なんかで会った事の無いくらい綺麗だった。
パクパクと口が動いた、何を言っているんだろう。
もっと近付きたいけれど、出来れば階段を駆け降りて直接話したいけれど。
それが出来る足が無いから、今僕は此処に居る。
僕からの返事が無いのが不満だったのか、彼女は僕に背中を向けて歩いて行ってしまった。
何て、言ってたんだろうな。
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