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僕が余韻に浸るように窓の外を眺めていると、カラカラと、扉を開く音が聞こえた。
巡回の看護師さんかも知れない。起きていたら色々と聞かれて、もしかしたら彼女が病室を抜け出した事がバレてしまうかも。
僕はなるべく音を立てない様にそっとベッドの中に戻っていくのだけど。
「ふふ、来ちゃった。ダメとは言わなかったもんね?」
カーテンの向こうから聞こえたのは、悪戯っぽい笑い声と耳に優しく染み込む様な声。
慌てて僕は跳ね起きようとして、それが出来ない足を一睨み。取り敢えずと手で髪を整えている間に、彼女はカーテンを少し開けて。
「あれ?寝ちゃってた?」
僕の慌てた姿を見てどう思ったのか、カーテンの中に入れた首から先だけを傾げる彼女。
「お、起きてたっ!」
「シー、周りは寝てるんだよ?」
思わず平時の声で返してしまった僕に、彼女は苦笑いしながら唇に人差し指を添えてたしなめる。
「病院って暇でしょ?私もずっとそうなんだー」
「ずっと?」
僕が起きてると分かれば、遠慮無くカーテンの中に入って来て。ふわりとベッドに腰掛ける彼女。
綺麗な子なのに、柔らかくて優しい声で、ふんわりと話しやすい調子で。
本当は聞き返すべきじゃないと思ったのは、言ってしまった後。
「うん、ずーっと。歳の近い子も中々居ないしね、それで君の名前は?」
だけど気にした風もなく。彼女は微笑を浮かべながら軽く頷き、やんわりと話を違う方に持っていった。
「早田、早田聡」
「ハイダサトシ?どういう字?」
「えっと……早いに、田んぼに、聡明の聡。」
「ふむふむ。私はねぇ……あ、そろそろ看護婦さんの巡回が来ちゃうか」
僕に名前を伝えようとした時、たまたま時計が目に入ったらしい。彼女の視線を追って見付けた自分のデジタル時計が恨めしい。
彼女はあっさりと立ち上がって、ひらひらと手を振りながら。
「ミヨコ、私の名前ね。それじゃあまた来るから」
最後にそう名前を告げて、ミヨコはカーテンの向こうに行ってしまった。。
また、来るから。
そう言って貰えた事が嬉しくて、僕は胸元で小さく拳を握る。
きっとミヨコも入院生活が退屈で、それを凌ぐためだとしても。
ミヨコと居た短い時間は、すごく幸せで胸がドキドキしていた。
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