1408人が本棚に入れています
本棚に追加
上杉ヒカル、25歳。
短大を卒業して、無事に幼稚園教諭の免許を手にした。
晴れて就職した小さな私立の幼稚園。
初めて任されたクラスの担任も漸く板についてきた……気がする。
気合いが入り過ぎて失敗ばかりの連続だけれど、園児達の笑顔に癒される日々。
子供達は可愛い。
可愛いの一言では済まないような事件は毎日起こるけれど。
あたしは成長していく彼らの通過点になって、逞しく生きて行く子供達の笑顔が絶えないよう導いて行けたら、と願う。
もう随分と暗くなった帰り道に雨の雫が迸る。
夏の手前の雨の匂い。
梅雨のじめじめはキライだけれど、季節の変わり目はいつも同じ。
夏が来ても冬が来ても、思い出してまた肌で感じるのは
……いつだって、あの人の事。
「……ハルトの好きそうな匂い」
離れてから久し振りに口にした名前。
口に出してから物凄く恥ずかしくなって、傘を差して歩く夜道に一人、照れ笑いを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!