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後少しで家に着くという頃、鞄の中で震えだした携帯電話。
「はいはい、もしもーし」
誰も見てやしないのに、まだ照れ隠し。
名前を確認する事もなく、声も高らかに慌てて通話ボタンを押した。
『……どうしたの?今日はテンション高いね』
「……あ、っ」
愛しい声が耳の奥で弾けるのを感じた。
脳ミソで考えるよりも先に、口から彼の名前が溢れ出る。
「ハ、ハ、ハルトっ……?」
『……うん』
思わず携帯をぎゅうっと強く握り締めて、痛いくらい耳に押し当てた。
「わ、え、な、何でっ……」
『ふははっ、何でって。彼女に電話しちゃいけないの?』
彼の声はいつもあたしをふわふわさせる。
ああ。
どうせなら、家に着いて静かな部屋で寛ぎながらゆっくりと話したかった。
『もしかして……迷惑だった?』
彼の言葉に慌てて答えを返す。
「と、とんでもございませんっ……急だったから、あの、び、びっくりして」
しとしと、反対側の耳を擽る雨の音。
車が通り過ぎる度、滲んだ水音を残していく。
携帯の向こう側はやけに静かで、ハルトの声は鮮明に、あたしの鼓膜に送り込まれた。
『久し振りに……ヒカルの声が聞きたくなったから』
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