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「焦って良い事は無い。もし稽古のやり過ぎで体でも壊してみろ。それこそ今までの努力が水の泡になる」
…確かに一君の言う通りだ。体を壊したら意味が無い。
もちろん今までの努力が水の泡になるのもだけど、何より近藤さんに迷惑を掛けてしまう。
土方さんに迷惑が掛かるのはどうでも良いけど、近藤さんにまで迷惑が掛かるのはダメだ。
ここは大人しく一君の言う事を聞いて置いた方が良いかも…。
「今夜は大人しくするよ」
「それが良い」
ここで初めて一君の表情が柔らかくなった。
それからしばらく薄暗い道を歩いていると、不意に一君が足を止めた。
「どうしたの」
「今、屯所から人が出てきた」
「人?」
前を見ても、闇が広がっていて奥を見る事が出来ない。
微かに屯所の入り口が見えるだけだ。
さらに目を凝らしていると、屯所から小さい影が飛び出してきた。
あれは…
「天宮?」
一君、君は一体どんな視力してるのさ。
僕には、小さい影が動いているようにしか見えなかったよ。
「本当に天宮さんなの?」
「ああ、確かだ」
「まさか脱走?」
「アイツに限って脱走は無いと思うがな」
確かに天宮さんの性格からして脱走とは考えにくいね。
何事にも慎重に行動する彼女なら、もっと上手に脱走するはずだ。
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