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黙って顔を見合わせる私たち二人の顔は同じ表情で固まっていた。
あまりのことに、言葉も出なかった。
私たちの存在には全く気付かない前の社員は
私たちに聞き間違いではないと思い知らせるようにはっきりと大きな声で続けた。
「室長って…硬派に見えて、実は結構遊んでたりして。何か誰にでも声かけてるみたいだし」
「ウッソ―!それって最低じゃん」
「でもさ…見た目は100パーセントイケてるし、肩書は秘書室長。なんだか惜しいし、断れなくて…」
「で、どうしたの?」
顔が引き攣(ツ)っていた。
私以上に…野崎さんも。
箸さえも持っていられなくなり
トレイに落とすように箸を置いた。
「場所…移ろうか…」
トレイを持ち上げようとした私よりも先に
彼女はトレイを手にして立ち上がった。
「…ごめんね。今日はもう…」
彼女の天ぷらうどんはほとんど口を着けていない。
天ぷらの衣がふやけて汁に溶けていた。
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