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振り向いた彼女は
どこか見覚えのある顔。
ロングヘアに縁のないメガネ。
…思い出した。
企画部にいた…
あの…メガネの彼女。
前はもっと物静かな印象だったのに…
曇りのないレンズの奥の瞳が怪しく笑う。
彼女が言っていることは明らかな嘘なのに
彼女は少しも悪びれる様子もなく私に言った。
「あら、桐谷さん。もしかして…今の話、聞こえてた?」
私は返事をしなかった。
自分でも彼女に向ける視線に温度がなくなって、冷たくなっていくのがわかる。
そんな私を気にもしないで彼女は表情を変えずに言った。
「ねえ、桐谷さんも誘われたりしたの?室長に」
我慢できなかった。
私は彼女の言葉を振り切って席を立った。
食器の返却口で全く中身の減っていない食器を返すと、奥から食堂のおばちゃんが心配して声を掛けてくれた。
私は謝ったつもりだけど
今まで感じたことのないほどの怒りで
言葉を発することが出来ないまま食堂を後にした。
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