黒い影

13/27
前へ
/130ページ
次へ
『格好いいんだよ。羽が生えたみたいに高く飛ぶの。それを見るの、私すごい好き』 でも、もうしばらく見れないかな。入院も来週からって決まっちゃったから。 退院するまで見れないのは寂しいな。 そう思った時。 ハッとした私は、スマホを握る手を開いてみた。 指先が小さく震えてる。……舌もピリピリ痺れてきた。 測定してないけど、恐らく私はまた低血糖になってる。 せっかく病院で点滴してもらったのに、頭が鈍り、ぼうっとしてくる。 本当に、最近は低血糖になる頻度が増えてる。 なんでだろ。 昔はここまでひどくはなかったのに。 疑問と不安に苛まれながら、私は枕元に置いてあるアメを口に入れた。 ダルくなる体に喝を入れて、ガリガリと噛み砕く。 たくさんの欠片になったアメは、口の中でトロリと溶けてゆく。 これでしばらくは大丈夫なはずだった。 ぼうっとしながら、スマホに表示されたフライドチキンくんのツイに視線を戻す。 『アンタもそいつにゴール、教えてもらいな』 そうだね。教えて欲しかったな。 バスケのコートに入って、そして、一緒にゴールの練習をするの。 いいな。憧れちゃうな。 廉くんと一緒に、みんなで磨いた綺麗なボールを持って、ゴールの練習……。 ああ、どうしよう。すごく眠たい。 分厚いヴェールがかかったみたいに、私の視界に紗が掛かる。 世界がまた、灰色に染まってゆく。 眠たくて、もう……返事、出来そうにないよ。 ――――ごめんね、フライドチキンくん。 ふわりと開いた私の手のひらから、スマホがコロンと滑り落ちた。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

266人が本棚に入れています
本棚に追加