黒い影

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――――やだな、お母さん。私、そんなに弱くないんだよ。だから、大丈夫。 その言葉を、私はなぜか言うことが出来なかった。 安っぽい気休めでもいいから、この時そう言って欲しかったのは、他の誰でもない私自身だったのかも知れない。 私は目を瞑りながら、先生との会話を思い返す。 先生、すい臓に異常を起こすインスリノーマって言う腫瘍があるかどうか詳しく検査するって言ってた。 もし腫瘍があったとしても、それを取り除いたら、インスリンの過剰分泌が解消されて、もう低血糖の心配なく元気に走れるようになるんだって話してくれたんだ。 夢みたいだった。 だから、私は早く検査したいって思えた。 手術とかになったら、確かに怖いって思うし身体に傷が残っちゃうのもイヤだけど、でも元気になるんだったらいい。 我慢できるって思うんだ。 でも、どっかに不安もあって。それが拭えなくて。 だから、楽しいことばかり考えた。 廉くんにバスケを教えてもらいたい。 皆みたいに行動の制限なく「普通」の生活がしてみたい。 そうして不安を誤魔化そうとした。 早く良くなるんだったら、それがいいに決まってる。 でも、入院することで、心残りもあって。 私は枕元に置かれた自分のスマホに手を伸ばした。 そして、未練がましく想いをツイートしてみる。 『明日からしばらくの間、バスケ見れなくなっちゃった。日曜日は他校との練習試合もあったから、すごい楽しみにしてたのに。残念だぁ』 入学して初めての練習試合で、廉くんは1年だけど出られることになった。 廉くんの晴れ舞台、指折り数えて楽しみに待ってたのにな。
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