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「おお」
にこっと笑われ、呆気に取られる。
目を細め、口角が上がれば、先程の恐怖は瞬く間に消えていった。
「すまないねぇ。驚かせてしまって」
「い、いえ……あっ!俺、今日から302号室に引っ越して来ました山田っていいます!」
勿論、偽名だけどね。
「そうでしたか。私は羽佐間(はざま)と申します。201号室に50年前から御世話になっている者です」
「50年前っ!?」
「ええ、建設当初に抽選で当たりましてね。それから……」
おっと、長くなりそうだ。
ジジィの戯れ言に付き合う程、暇じゃない。
「あ、えっと……」
察しろよ、じいさん
念が通じたのだろう。
「これはこれは。引っ越しでお忙しいですな。ではまた」
「すみません。これからどうぞよろしくお願いします」
精一杯に爽やか好青年スマイルを浮かべ、俺はその場から退避した。
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