第1章

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すると、彼女が立ち止まった。しまった、理性なんかとっくに忘れて、身をひそめるのを忘れていた。けど見つかってほしいとも同時に思っていた。彼女は辺りを見回して少し困ったような様子をとっていた。そして彼女は何故か泣いた。このシチュエーションに戸惑わない僕ではないが、ハンカチを差しのべれば顔を確認できる。こんなにいいチャンスはない。    そう思ったとき、後ろからすごい勢いで車が大きな音を鳴らしながら迫ってきた。 でも彼女は微動だにしない。そして、車もまた、彼女に引き込まれるように…早く助けなきゃ! 『キューーキュルルルル!!』 『バタン!』 僕はあのとき彼女を助けるのに無我夢中でそのあとのことは考えてなかった。もちろん、僕にメリットがあるのかは分からなかった。でも僕の体はとっさに動き、車の進行路を妨げるように僕は彼女に覆い被さっていた。 心臓の動悸がいつまでたっても止まらなかった、そのドキドキと共に彼女を見てしまったのがいけなかった。 彼女はとてもいい匂いで、さらに動悸がました。目には涙を浮かべていた。すごくかわいかった。 僕は彼女に顔を近づけた。動悸を早めたいのではない、むしろ、止まってほしいから…いまの状態はとても苦しい、でも離れたくない。 すると、 「…いいよ…」 そういったように感じた。僕はもう我慢が切れて、スイッチが入ってしまった。彼女を抱きしめた。彼女も僕の肩に手を回すかたちで脱力していた。そして最後にキスをしようとした。 彼女も少しずつ口を開いた、もうこのまま… 「…もう、いいよ、大丈夫だから…ありがとう。」 ここでそうはっきりと聞き取った。今の状況はどうだろう。僕は自分がバカでないのを初めて悔やんだかもしれない。確かに少しは戸惑ったが、それは、最初の一言とつじつまがあう。 恐らく彼女はずっと僕が上に乗っているからもういいよと最初も言っていたのだ。 あ、ごめんと平然を装うのが精一杯だった。彼女の顔は真っ赤だったが、涙のひいたあとのようだ。彼女は、 「その、道に迷っちゃって…頭が真っ白で、車に気づいてなかった、だからほんとありがとう。」
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