第1章

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 彼女は彼女でパニックな状況であることが何となく分かった。僕は幸い、恥をかかずに、ただ助けた人だ。いや、もともとそのつもりだったんだ、うん。 でも、少ししてなにか大切なことを忘れていたことに気づいた。彼女、道に迷った?それってことは通学路じゃないのか?そうなるとどうやって帰るんだ?  少し沈黙が流れた後、僕から口を開き会話の主導権をとることで、平静を装うことに決めた。 「あっ!」 僕がまさに口を開こうとしたその瞬間、彼女がそれを遮るように、言葉を発した。  そして、彼女は僕の顔の後ろの方へ指を指す。その方向へ僕が顔を向けた。よーく見てみるとそこには茂みに隠れた、公園があった。 「あそこで休憩しない?」 僕は変な気持ちにさせられてそわそわしてしまったが、これも上級生の、上級生にしか出せない雰囲気だと思う。僕は将来これに、召されたいのだ。いやもっと言えば…いや言わないでおこう。    僕が気の抜けた返事しかできなかったものだから彼女はくすっと笑みを浮かべた。僕は少し赤面しながらも、ひと段落しそうな状況にほっとしていた。  公園へ着くには家と家の路地を通る必要がありそうだった。ひと一人がやっと通れるほどの狭さであったがそれでも公園へいけば落ち着くんだという気持ちにさせられる何かがそこにあるように感じていた。  その路地へと入る順番を考えている間に彼女に後ろから押された。僕は今彼女にもて遊ばれているような気がした。もしかしたら、この子は最初から道に迷ってなんかいないんじゃないか?その考えが頭をよぎった。僕は恥ずかしい思いがこみ上げてそもそもおせっかいを焼くんじゃなかったとそんな気分になっていた。  彼女とはもう一緒にはいられないけど僕は正直に思っていることを告白しようと思った。そもそも、会ったのは最初だし、名前だってわからないし…何より恋愛のしかたを知らない僕には、いや世間一般にも認められた形ではない気がした。これは、春の香りが僕に幻覚作用をもたらしたのだとそう自分に言い聞かせ、夢と受け入れる準備をしていた。そのとき後ろから僕の方へ近づく足音が、夢の終わりを告げるかのようにどんどん大きくなって頭をこだました。    
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