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ナツメは、一吹が忙しいことは分かっていた。
一吹に気を遣えば遣うほど、会話も減っていく。同じベッドで寝ていても、一吹はナツメに背中を向ける。
ナツメは、1日ずつ、少しずつ、心が削れていく気がした。
その心に手を差し伸べてくれた謙介。
謙介の左手は切り落とされ、今、自宅のベランダにある。
改めてその事実を考えたとき、ナツメの目から涙がこぼれ落ちた。
ふいに、玄関から鍵を開ける音が聞こえてきた。ナツメは慌ててマウスを動かし、エイルのページを閉じた。
一吹がリビングに入ってきたところで、ナツメは「おかえり」と言って立ち上がった。
「ご飯、今から準備するね」
一吹はナツメに返事をしないで、寝室でスラックスをハンガーにかけると、さっさと浴室に行った。
シャワーの音が聞こえる。ちくちく、胸に刺さる。
謙介を想ってではない、涙が一粒落ちた。
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