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「あたし、これから用があるの。早く帰ってくんない?」
なんて。精一杯の見栄っ張り。
別に用なんてないのに、こうとしか言えない。
この圧迫される空間に耐えられない。
昂平の漆黒の瞳に、見つめられていると思うと敵わない。
…たとえそれが、蔑むような全く心地のいいものではないと分かってはいても。
胸のどこかが締め付けられるのは、やっぱり“良くない”。
早く出たい。
早く昂平から解放されたい。
あたしは鞄の中に今広げていたノートをしまい、後ろに立っている昂平を気にすることなく立ち上がった。
「……っ」
立ち上がると、嫌でも痛感してしまう。
いつの間にか大きくなった背丈。
瞳を奪う端正な姿。
洗練された物腰、綺麗な顔立ち。
…漆黒の瞳。
もしもあたしが幼なじみじゃなかったら、もっと遠い存在だったら万に一つの可能性で好きになっていたこともあったかもしれない。
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