第1章

8/21
前へ
/92ページ
次へ
『お前はこんな小さな世界で満足なのか?』 ケンジロウの問いかけにエリーは首を捻る。 『俺がここにいるのは、ここを出るためだ』 『はっ』 ケンジロウの言葉にエリーは鼻で笑った。ケンジロウに背を向け両手を広げながら彼は言う。 『ここを出る?ここは天国だぜ。外は地獄だ。俺はあんな世界に戻りたくはねえ』 『だがここに自由はない』 エリーはケンジロウの言いたいことが分からなかった。ここでは好きなことができる。力のある者にはすべてが許されているし、欲しい物はなんだって手に入る。まさに自由そのものではないのか? 『俺は自由だ。ここは楽園さ』 そう言って笑うエリーにケンジロウはその両の瞳を向ける。 『そうか…』 ケンジロウはその瞳をエリーに向けたまま逸らさない。その瞳はとても悲しげでエリーは言葉に詰まってしまった。 瞳を逸らしたいのに、何故か逸らせない。ケンジロウの心が悲鳴を上げているように感じた。 『ケンジロウ…』 『なら、俺とお前は相容れない存在だ』 エリーが言おうとした言葉をケンジロウが遮った。ケンジロウはエリーに背を向けた。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加