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エリーはケンジロウの部屋を出ると中庭に向かった。いつもの自分ならあの場で引いたりしない。
だが、あのときケンジロウが見せた悲しげな瞳がエリーの中の何かを思い出させた気がした。
『なんだってんだ』
エリーは訳が分からずそう口にしていた。
何故ケンジロウのあの瞳に自分がこんなに動揺しているのか分からない。
だが何故かは分からないが、エリーはあの瞳を前から知っているような気がしてならなかった。
ずっと一緒にいた、大切な誰か…。
エリーは何かを思い出しかけた。が、その瞬間頭に痛みが走る。
『くっ』
エリーは頭を押さえた。痛みで立っていられない。
『大丈夫か?』
ふらついていたエリーの腕を誰かが掴んだ。その誰かはエリーの体を支えながらベンチへと連れていく。
『少しここで座っていろ』
エリーは痛みを堪えながら、その男の姿を見ようとした。
キングと呼ばれるエリーにこんな風に話しかける者はいない。だが不思議とエリーはその男に怒りを感じなかった。
『じゃあな』
男はエリーにそう言うと背中を向けた。
『お前の名前は?』
エリーは男に問いかけた。男が立ち止まり振り返るのが気配で分かった。
『俺はナオトだ』
男は名前を告げると、そのまま姿を消した。痛みが治まってきたエリーはさっきの男の姿を探す。だが、その姿はどこにもなかった。
『ナオトか…』
エリーはそう呟くと、そっと口元を緩めた。
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