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大きな肉まんを売る屋台の前で、だらだらと涎を垂らしているコウタの横を、煌びやかな赤い服を着た女性がスッと通り過ぎる。髪飾りとして着いている大きな花の香りだろうか、肉まんの美味しそうな匂いに混じって、コウタの鼻をくすぐった。
(良いにおい……)
さっきまでの食欲が一気に落ち着き、コウタは赤い服を着た女性の後ろ姿に釘付けになる。ユラユラと薄い日除けの布が揺れるーー顔が見たい。コウタは此方を振り向かないかと、肉まんを買う女性の背中をジッと見つめた。
すると、肉まんを一つ買い終え、振り返った女性とバチリと目が合う。思った以上に綺麗な顔立ちの人だった。
目が合った瞬間、女性はニコリとコウタの方に微笑んだ。なんて優しそうに笑う人だ、コウタは自然と口元が緩んだ。綺麗な人だと、その女性を見ていたコウタは、とある事に気が付いた。この女性に見覚えがある。
「あれ……? あの女の人って…………」
『……ま、ま、まさか……』
「……あの人だよ、な? 神様が探してほしいって言ってた、あの人だよな……」
『彼女は錫杖の槍がある隣の国に居る筈だぞ……! 何故、こんな町に……』
こんなに早くに見つかるなんて思ってもみなかった。異世界に着いて十分も経たないうちに、第三の任務ーー神様が化けていた美しい女性を探しあてる事……が、完了してしまった。
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