第2話『到着!異世界』

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「え、ああ……すげえ、綺麗……つか、目が合った時、笑いかけてくれてなかったか? もしかして脈あり……!」 『馬鹿者……貴様に笑いかけたのではなく、私に笑いかけたのだ! 肖像画などで見るのと、比べものにならんくらいに美しい……』 「いやいや、神様って姿見えないんでしょ? 俺に笑いかけたんだって絶対」 『貴様なんぞに笑いかける訳ないだろう』 「なっ、なんだと!? 酷え!」  そうもめている二人の前に、女性は歩み寄ると、傍から見れば一人で喚いているコウタを見てクスっと小さく笑った。女性に笑われた事に気が付き、コウタの顔は真っ赤になる。女性は、そんなコウタの目の前に、先程買っていた肉まんを差し出した。どういう事だとコウタは女性をじっと見る。目の前に差し出された肉まんの所為で、さっきの食欲がぐんっと戻ってくる。ごくりと唾を飲んだ。 「え、えっと……」 「どうぞ。お腹空いてるのでしょう?」 「え! な、なんで分かったんすか……! まさか俺の心が読めるの!?」  心を読まれたと、激しく動揺するコウタを見て、またクスクスと片方の服の袖で口元を隠しながら女性は笑い出す。コウタにとっては笑い事ではない。神様だけでなく見知らぬ女性にまで心を読まれてはプライバシーなんてあったもんじゃない。 「ううん、まさか。読めませんよ。君の顔にね、お腹が減ったって書いてあったんです」  女性は、差し出した肉まんを受け取ろうとしないコウタの手をとり、肉まんを持たせ、ニコリとまた笑いかけた。その笑顔にコウタは心を奪われ、されるがままに肉まんを受け取ってしまった。 「いいんすか……。いただいても」 「いいんですよ。あっ……そうだ、これもあげる」  ゆったりとした赤い上衣の裾から真っ赤な果物を取り出し、コウタに押し付けるように手渡した。戸惑うコウタに「果物は嫌い?」と眉を下げて、こくんと首を傾け問うその仕草に、コウタの胸はきゅんと締め付けられる。「いえ、大好きっす!」と、元気良く答えると、女性は、満足そうにやはり口元を服の裾で隠しながらふふふと笑った。
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