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「なんで俺に肉まん奢ってくれるんすか」
「ふふ、君の物干しそうな顔を見たら、きっと私でなくてもご馳走してくれますよ」
コウタは溢れ出る食欲に我慢できず、「そ、そうっすか? じゃあ、有難くいただきます」と、大きな肉まんを頬張った。その様子を女性はどこか楽し気に見ていた。
じゅわっと広がる肉汁にコウタが悶えていると、肩にドンっと誰かがぶつかった。危うく食べかけの肉まんも、真っ赤に熟れた果物も落としそうになった。
(危ねえな……)
内心そう思いながら周りを見ると、いつの間にか先程とは比べものにならない程に、人が増えていた。その事に気が付いたのか女性もソワソワと周りを見回している。
人の量が増えたというのに、さっきまでの活気が落ち着きはじめていた。コウタが肉まんを食べ終わる頃には、先程まで道を歩いていた個性が爆発したような服装の人達とは違い、皆同じような服をキチリと纏い、槍を片手に持つ集団に囲まれていた。人が増えたのはこの集団が来た所為か。
なんの前触れもなく、怪しい集団に囲まれ、反射的に女性を背に庇うように立つ。そんなコウタの目の前に、宝石が散りばめられた豪華に着飾られた馬車が一台止まった。
(なんだ……この派手な馬車は)
怪訝そうに馬車を見るコウタの目の前に、槍を持った集団の中から一人、服装が違う者が歩み寄った。その集団は皆、コウタより身体が大きく、髪は短く切り揃えられ、堂々と胸を張りながら立っている。その姿はどこから見ても逞しい。だが、コウタに歩み寄った一人は、体格こそ他の者とは変わらないが、目元を覆い隠す程長い前髪、自信のなさげに曲げられた背筋、とてもじゃないが逞しいとは言えなかった。
(一体この集団は……)
『この馬車……この従者の数……この町、いやこの国一番の貴族といったところか』
(き、貴族……? この世界、貴族とかいんのか……つか、従者って事は、この槍もった集団全員、その貴族の従者達って事か?)
『ああ、そうだ。まあ、貴族と言ってもただの金持ち連中だ。そう気にする事はない』
(いやいや、こんだけ囲まれてたら気になるだろ)
槍を持つ集団が来た所為か、さっきまで賑わっていた露店も静まり返っている。コウタの前に立つ暗い雰囲気の男性は、コウタに目もくれず、後ろに居る女性を無言でじっと見つめた。
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