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(なんなんだ……?)
状況があまり読めなかったが、とりあえず女性を守らねばと、本能的に思いコウタは男性の前に立ちはだかった。
コウタの後ろにいた女性が、するりと前に出て、コウタに向かい合う男性に小さく会釈し、日除けの布を翻しながら豪華な馬車の側へ駆け寄った。
男性は、やはりコウタに見向きもせず、女性につづき豪華な馬車の側へ行き、馬車の入り口をパカリと開いた。女性は開かれた入り口をくぐり馬車の中へ入って行ってしまった。
(もしかしてこの馬車は、あの人を迎えにきてたのか……?)
自分は女性を迎えにきた馬車に対して、女性を庇うように立っていたのだと気付き、コウタは自分のその勘違いに恥ずかしく、居た堪れない気持ちになり、馬車から目を逸らすように俯いた。
馬車の中に女性が乗り込んだ後、男性が開いたままの入り口を閉じようと手を伸ばすと、ひょこりと女性が入り口から顔を出した。コウタは、じっとこちらを見る視線に気付き、俯いていた顔を上げる。バチリと女性と目が合った。女性は、はじめて目が合った時と同じようにニコリと笑いかけてくれた。今度は、コウタもニコリと笑い返す。
「ここ、治安あまり良くないから気を付けてね。じゃあ、またいつか会おう」
「あ、ありがとうございます! また、いつか……!」
コウタが別れの挨拶を言い終える前に馬車は進み出した。上品に小さく手を振る女性に向かって、コウタは大きく手を振りかえした。
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