13人が本棚に入れています
本棚に追加
槍を持った集団が去り、露店はさっきまでの活気が戻ってきた。コウタはじっと女性に貰った赤い果物を見つめる。
「優しい人だったなあ……。貴族って聞いたら意地悪なイメージだったけど、完全なる偏見だったわ」
『うむ……私が思っていた以上に美しい方だった……見た目だけでなく心も』
「つか、これで第三の任務は完了?」
『馬鹿者、名の一つも聞けていないだろう。もう一度あの人に会うのだ』
『だが、この国一番の貴族と解った以上、探し出すのは容易いだろうな』
「神様嬉しそうだなあ……。神様とあの人ってどういう関係なの? 名前も知らないっておかしくないか?」
『ああ、そうだな。仕方ない話してやろう……あれはまだ私が幼かった時ーー』
赤い果物を右手で弄びながら神様の話を聞いていたコウタの背に、ドンっと何かがぶつかった。あまりに強い衝撃で、噎せ返った。
「げほっ……この世界の奴はよくぶつかってくんなあ」
後ろを振り返ろうとしたところ、黒い髪に黒い目の少女が、コウタの手に握られた赤い果物を掻っ攫う。「あっ」と思ったがもう遅い。少女は人混みの中を駆け抜ける。
「ど、泥棒ーー!!」
コウタは少女の背中を追いかけ走るが、その少女はどんどんとコウタと距離を開いて行く。走る事には多少なりとも自信があったコウタは、まさか自分より年下であろう少女にこんなに差をつけられるとは思ってもいなく、軽くショックを受けた。
「くそ、速い……! 折角あの人から貰ったものなのにーー!」
『人のものを奪うとはけしからんな。よし、追うぞコウタ』
「追ってるから! 今、追ってるよーー! 全然追いつかないけどーー!」
『ふむ、この速さ……あの少女は、身体強化魔法を使っているのか? ならばこちらも使えばいい話だ』
「しっ身体強化魔法ーー?」
『ああ。走るだけなら下半身のみで良いな』
「その身体強化魔法ってどうやんのーー!? 早く早く、見失っちまうってーー!」
『そうれ! これで、どうだ。追いつくだろう』
神様の″そうれ″という掛け声を合図に、コウタの脚に、どこの国のものかわからない文字がキラキラと並び光りながらとグルグルと纏いついた。その光る文字達は、まるで脚に吸収されるかのように消え、同時にコウタの走るスピードがグンっと上がった。
最初のコメントを投稿しよう!