三章 南陽黄巾軍

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 朱儁のいきなりの心変わりに、孫堅は少し戸惑った。いままでの態度を一転させ、宛城を落としに掛かろうと言うのだ。 「一体どのような心境の変化ですか?」  つい薮蛇な質問をしてしまうのも無理はなかろう。 「わしの心境の変化などどうでも良い。それより宛城をどう攻略するかだ」  それは孫堅も先程まで考えていたことだ。しかし、どうやって朱儁や秦頡に積極的に戦う意欲を沸かせるかが問題だった。  そのうちの朱儁は、どうしてかその心配が無くなっていた。後は秦頡だが、官軍の将であり、この戦の総大将でもある朱儁が戦をすると言っている以上、高見の見物は出来まい。  当面の問題はどのように宛城を攻め落とすか、黄巾軍を倒すかに絞られた。 (軍議には周瑜と黄蓋を呼ぼう)  事実上は孫策の軍師だが、立場上は孫堅の軍師でもある周瑜。孫堅が呉軍で挙兵し、建業太守になるまで数々の戦場を共に経験してきた黄蓋。  知謀と経験。  孫堅が二人を軍議の場に呼ぼうと考えたのは、そういう理由だった。  それから四半刻も経たないうちに宛城包囲が開始されてから数えて、二回目の軍議が開かれた。    §§§§§§§ 「ようやく朱儁殿が軍議を開いたらしいね」 「あ、征夜。お帰り~。どうだった?」 「ただいま、孫策。朱治殿はかなり苛々してたよ。程普さんは大変だね。周瑜は?」  征夜は孫策に頼まれて、一人で各部隊の視察に出ていたために、周瑜や黄蓋が軍議に呼ばれていることを知らないのだった。 「父さんに呼ばれて軍議に出てるよ。黄蓋と一緒にね」 「じゃあ黄蓋さんとは入れ違いだったのか」  孫策と一緒に幕舎に入り、簡易の椅子に腰掛ける。 「特に何も無かったの?」 「うん、うちの軍に目立った問題は無いね。朱治殿が苛々してること以外は」 「じゃあ、問題は朱儁殿が何でいきなり軍議を開いたか、ね」 「そうだね」  勿論、征夜は三国志の歴史を知っており、幾つかの理由も思いつくが、必ずしもこれが正しいと言える訳でも、正確ではない情報を流すことが危険であるとも分かっているため、あえてそれを口には出さない。 「探らせてみる?」 「うーん。そういうのは公瑾とか父さんがやるだろうし、私はやらない」 「あ、そ」  顔に面倒という二文字がありありと浮かんでいることには、触れない方が良いのだろう。    §§§§§§§
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