三章 南陽黄巾軍

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「遅れたか、文台殿?」  周瑜と共に軍議が開かれるという幕舎に入ると、宛城の包囲網を敷いている軍の主立った者が既に待機していた。  そのうちの一人である孫堅の隣に立ちながら、黄蓋は話し掛ける。 「いや、軍議はまだ始まっておらん。それよりすまんな二人とも」 「何、軍議に参加出来るなら多少の苦労は厭わん」 「私も構いません。元より私の才は、軍議の場でこそ発揮されるものですから」  周瑜がそう言い終えたとき、タイミングよく朱儁が側近の将を連れて幕舎に入ってくる。 「皆、これより宛城攻城戦の軍議に入る。孫堅殿、まずは現状の報告を頼む」 「はっ!現在、宛城にはおよそ四千の黄巾軍が篭城をしています。大将は趙弘という者です。対するこちらは、全軍合わせて一万と数百。これを宛城の四門に分散し配置することで包囲しています。  一点集中で攻められれば、こちらは一時的に劣勢になりますが、左右の軍が合流すれば、三方からの挟撃となり、また残りの一軍が門を攻め宛城を落城させられるため、勝利は必至。  それが分かっているため、相手も篭城を続けています。  秦頡殿、宛城の兵糧がどれくらいかお分かりか?」 「昨年の報告通りなら、四千の兵で一年は篭城出来る。敵の士気は容易には下がらんだろう」  秦頡は苦い顔をしながら、孫堅の問いに答える。 「皆、聞いての通りだ。宛城に篭るのが賊とはいえ、容易には落ちん。何か策はあるか?」  朱儁の一声で場がシンと静まってしまう。そもそもこの場ですぐに策が出せるようなら、もっと早く軍議が開かれていただろうし、攻城戦も早く行われていただろう。 「単純に四方から同時に攻めてはどうでしょう?」  朱儁の側近の将が恐る恐るという具合に進言する。 「それでも城は落ちるだろうが、それまでに失う兵の被害が知れない。もっと確実性が無ければ」 「そう言う秦頡殿は、どのように宛城を落とされたのですか?」  少しムッとした表情で、その将が尋ねる。 「前回は大将が張曼成という者だった。奴は血気盛んな将で、我らの軍を見ると、城に篭らずに仕掛けてきた。しかも先頭を駆けて来た故、一点集中で張曼成を討ち、それで勝った」  秦頡は坦々と前回の南陽黄巾軍との戦いを振り返り語る。
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