三章 南陽黄巾軍

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「他には何か無いのか?」  再び静まり返った軍議の場で、一人の将が静かに手を挙げる。 「む。お主は確か、周瑜と申したな。何か良策があるか?」 「良策かどうかは朱儁殿に判断して頂きたい」 「うむ。まずはお主の策を申してみせよ」  周瑜は中央に広げられた簡易の地図に駒を動かしながら、自らの策を披露する。 「はっ。彼我の兵力差はおよそ三倍。これを利用し、まずは味方を三隊に分けます。その三隊で交代しながら、昼夜を問わず間断無く宛城を攻め続けます。それを四方同時に行うのです」 「それでは兵力差が拮抗するぞ?」 「しかし、こちらは隊を交代することで休めますが、敵は昼夜問わず戦い続けなければなりません。敵の疲労は溜まり続けるばかり」 「そうだな」 「そうして敵を追い詰め、一度だけ一つの城門に隙を作ります。その間は全門で攻撃を停止します。そうすれば、心的にも追い詰められた敵は、隙のある城門から逃げ出すでしょう。そこに、別門の隊を伏せて置けば、敵を一網打尽に出来ましょう」  長々と語り続けた周瑜は、一度深呼吸するだけの間を取る。 「如何でしょうか、朱儁殿?」  周瑜からの問い掛けに、朱儁は長く沈黙を保つ。  十分程過ぎた時、ようやく朱儁が口を開く。 「周瑜。お主の策を採用しよう。隊の編成や伏兵の位置など、策の具体案を示せ」 「御意に」 「孫堅殿。貴殿の将を暫しお借りするぞ」 「若輩者故、至らぬ点もございましょう。周瑜と共に、この黄蓋もお使い下さい」 「良いのか、黄蓋殿?」 「それが我が主の命とあらば」 「孫堅殿の元には、良い将が集まっておるな」 「お褒めに与り光栄にございまする」 「よし。軍議はここに決した!各々方、これより宛城を落としに参るぞ!」 『おおぅ!』  宛城攻城に向けた二回目の軍議がようやく決した。  軍議の内容は、宛城を包囲している各隊に伝えられた。また、周瑜の示した策の具体案を元に、朱儁が各隊を編成し、伏兵の位置や隙を作る時機も決められた。  策を示したのが孫堅の下の将ということもあり、孫堅軍は少々重い荷を負うことになったが、孫堅軍の面々は、単純にこの前進を喜んでいた。
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