三章 南陽黄巾軍

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「お聞かせ下さい」 「うむ。どうやら朱儁殿の陣内に、朱儁殿を更迭するように進言しておる者がいるようでな。それを知った朱儁殿は、急いで宛城を落とそうとしたらしい」  征夜はそれを聞き、自分の知っている仮説の中の一つを思い浮かべた。  朱儁更迭を進言している者がいることを知った朱儁は、急いで宛城を攻撃。趙弘の首を刎ね、宛城を見事落とす。しかし、黄巾軍はさらに新しい大将を立てて、再び宛城に篭城する。結果的に朱儁は更迭を免れるのだ。 「成る程。それで得心がいった。いつまでも官軍が、賊軍一つも倒せないようでは、更迭も仕方なしとされる可能性は存分にある。今の奴らの考えそうなことだ」 「朱儁殿はそれを恐れ、急遽、軍議を開いた訳ですか。それなら最初からやる気を見せていれば、そういう自体も免れ得た筈ですが」 「凌操の言う通り。朱儁殿は今の官軍ではマシな方だが、やはり幾らかマシ程度であったか」 「そのようなこと、瑣末なことだ黄蓋。今は宛城の攻略こそ重要」 「朱治の言う通り。父さん、さっさと終わらせよう」  孫策の気迫の篭った声に、孫堅も力強く頷く。 「東門を任されたのは孫家のみ。辛い戦いになるだろうが、孫家の意地の見せ所だ!各々、死力を尽くして闘おう!」 「おう!」  一致団結した孫家の面々を見回し、その頼もしさを孫堅は感じていた。  武勇に優れた猛将勇将が揃い、策謀に優れた知将がおり、自分の後を継げる器を持つ子がおり、それを精神面で支えていける者もおり、忠義を誓い命を託してくれる大切な兵もいる。  恵まれた環境にいるのだという自覚があり、それを大切にしたいという思いも十二分にある。  全員が団結すれば、この戦も容易かろうと思える。それだけ頼もしい面々が孫堅の元に集ってくれているのだ。 「一番隊は朱治、凌操、韓当。二番隊は黄蓋、程普。三番隊は孫策、周瑜、征夜。攻め方は各隊に任せる。各隊の交替は速やかに行い敵に隙を見せるな。以上だ。朱儁殿の合図があるまで、軍を整えて待機だ」  全員に指示を与え終え、それを成すために散っていく将達を見送ってから、自分の幕舎に戻り一息吐く。ここに残っているのは、孫堅と、親衛隊の兵のみだ。 「この黄巾討伐戦が終わっても、今の世の乱れは治まらんだろう。漢王朝に巣くう賊共を根絶やしにするまでは」
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