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今日は久しぶりの休日だ。
結婚相談所はサービス業である。
なので勤務はシフト制で、土日や祝日に関係なく仕事があった。
そして休みは不定期で、専≪もっぱ≫ら平日に割り当てられている。
当然友人達と休みが合う訳もなく、私はいつも一人で過ごしていた。
忙しなく行き交うサラリーマン達を横目に見ながら、のんびりと通りを歩く。
すると前方に、人だかりが出来ているのに気がついた。
平日の午前中から、何かパフォーマンスでもやっているのだろうか。
好奇心に駆られて、その中に分け入って行く。
人垣の向こうにはぽっかりと、まるでそこだけ結界が張られているかのように空洞が出来ていた。
そしてその中心には、マサイの戦士が一人――。
「なん……だと?!」
人々の好奇の視線を一身に受けるその人は、半裸姿だった。
大都会の真っ只中に、しなやかな筋肉に覆われた裸身を晒す青年がいる。
彼は腰簑≪こしみの≫一枚を身につけて、コンクリートブロックの上に腰掛けていた。
槍こそ持ってはいないものの、その姿は今すぐ雄叫びを上げながらガゼルや猪を狩れそうな程、気合いの入った戦闘スタイルだ。
因みにこちらに背を向けているので、彼の顔は分からない。
だが燃えるように逆立った深紅の髪に、物凄く既視感を覚えた。
嫌な予感がする。
早くこの場から立ち去った方がいい。
私の本能が全力で警鐘を鳴らす。
それに従って、くるりと踵を返した。
するとその時。
「町田さんではないか!」
マサイの戦士も、くるりとこちらを振り返った。
シィイイイイット!
内心で思い切り舌打ちをする。
遅れて周囲の人々も、ざっと一斉にこちらを見た。
何だ、知り合いか?
あのマサイと知り合いなのか?
狩り友達か?
突き刺さる視線が、言葉にしなくても雄弁にその心情を物語る。
違います、人違いです。
趣味は狩りではなくて、ウィンドウショッピングです。
私は直ぐ様歩き出した。
振り返ってはならない。
目も合わせてはならないのだ。
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