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勇者アカデミーの創設者は伝説の勇者『アーサー・ロレイウス』である。
彼は私財を投じて太平洋にぽつりと浮かぶ『ロイド島』に巨大都市を築き上げ、その中央に勇者アカデミーを据えたのだ。
全ては次代の勇者を育てる為に――要するに魔王を討ち滅ぼす為に。
「まあ、詳しく話すと長くなるから今はやめておこう」
面倒だしな――とクリル・ククリアはホットドックを片手に説明を中断する。どうやら噂に違わぬ怠け者らしい。
榛名虎太郎は頬を掻きながら、見慣れぬ町並みを一瞥する。
三日ぶりに踏みしめた大地に抱く感慨は特になかったが、巨大なビル群には思わず目を見張ってしまう。
最早古代文明の域に入ってきた科学による文明は、先代の魔王の所為で殆ど破綻したはずだが――ここ『ロイド島』はその例に漏れるらしい。
ガラス張りの高層ビルを仰ぐ虎太郎の肩を「オイ」というクリルの幼い声音が掴んだ。
「何をしているんだ?」
「見学がてらここに入ってみてもいいかな?」
「たわけ」
こつん、と胸を叩かれた虎太郎は小首を傾げ、それを見たクリルは熱い嘆息を放出。
面倒くさそうに眉根をひそめながら金紗の髪の毛を従える小さな頭をゆっくりと横に振る。
「お前はここに何をしにきたのかわかっているのか?」
虎太郎は首肯する。当然だ。
「親父をぶっ殺して英雄として崇められる為だぜ!」
キラン、といわんばかりのウインクで答える。その為だけに今日まで生きてきた。
蕁麻疹が出るほどに嫌いな勉強に励んできた。そしてようやく試験に合格したのだ。
下から突き刺さる刺々しい視線に構わず、虎太郎は涙する。
苦しかった。辛かった。初等部の試験に落ち、中等部の試験にも落ちて、今回の試験が最後のチャンスだったのだ。
そして九年越しの努力が報われたのだ。泣いたっていいだろう。男泣きをしたって別にいいではないか。
「お、おう……。ウインクと涙はともかく。その野心を私は買っている。だから魔王の落胤であるお前を入学させた。殆ど強引に、な。私の一存で、な。ちなみに入試の結果は壊滅的だったぞ」
こほん。クリルは咳払いと共に歩き始める。
「アーサーが勇者アカデミーを創設して既に百数年。未だに次代の勇者は育っていない。私はな、榛名虎太郎。お前に賭けたのだ。お前なら魔王を討ち滅ぼせるかもしれない。そう考えているのだぞ」
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