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「別に期待されるのは構わないんだけど……」
後頭部を掻きながら虎太郎は、低い位置にあるクリルの顔を推し量るように眺める。
伝説の勇者と共に先代の魔王を打ち倒した大賢者――クリル・ククリアの名前を知らないモノはいないだろう。
吟遊詩人の歌の中にも、お堅い書物の中にも、彼女の名前は登場する。
もちろん、山奥の集落で育った虎太郎でさえも知っていた。
しかしだ――しかし。子供だとは思いもしなかった。
年の頃は十歳に届くかどうか、というくらいだ。
幼女特有の華奢な身体つきは野花を連想させ、撫で肩に垂れ下がる二房の髪の毛が彼女の幼さを強調している。
虎太郎は目を眇める。
白いローブを引きずる彼女は首を傾げていた。
ラピスラズリのような両の瞳、小振りだけれど筋の通った鼻。
絶世の美女だという話は耳にしていたが――実際に整った顔立ちではあるが――虎太郎は「うーん」と唸る。
美女と呼ぶにはまだまだ時間が足りないように思えてならなかった。
少なくとももう十年は必要だろう。
「お前……本当にクリル・ククリアなのか?」
虎太郎がそう尋ねると、彼女は子供のように頬を膨らませて不満を表明する。
「ああ、確かに。この姿の私では説得力がないだろうな。だが、私は本物だ。正真正銘、クリル・ククリアだ。そもそも私のような可愛らしい幼女が、これだけ滔々と喋れると思うか?」
「言われてみればそうだけど――」
態度も年不相応だし、と虎太郎は苦笑する。
「でも仮にお前がクリル・ククリアだとするのなら、お前らが親父を倒せばいいじゃん」
時代的に考えてとっくに死んでいると思っていたが、存命でしかもピンピンとしているのならば、また倒せばいいではないかと虎太郎は思う。
後進の育成は確かに大切かもしれないが、現魔王を殺してからでも遅くはない。
そんな虎太郎にクリルは「いや、それは無理だな」と気難しい顔で答える。
「他の連中の所在は不明だ。普通に考えればとうに死んでいるだろうよ。魔王を倒した褒美にそれぞれ願いを一つ叶えてもらったが、不老不死を願ったのは私だけだったしな」
「スゲーな。親父をぶっ殺すと願いを叶えてもらえるのかよ。親父ピンチじゃねぇか」
「ああ、それ目当てで勇者を志すモノも多いよ」
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