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「でも、なんでお前は不老不死なんて願ったんだよ? そういうのってお伽噺とかだと大抵は悲劇の類だろ?」
「愚問だな」
クリルは鼻を鳴らした。
「働きたくないからに決まっている。さっきも言っただろうよ。不老不死ということは死なない。つまりは食べなくても死なないだろう――と勘違いしていたワケだ」
「勘違い?」
虎太郎はクリルの右手に握られたホットドックを一瞥して思い出した。
大賢者クリル・ククリアは空腹による貧血で倒れていたのだった。
「どうにも不老不死は普通に殺せるらしい。年は取らないし、寿命でも死なないがな」
「まあ。当時のメンバーは集まらないにしてもさ、どうにかなるんじゃないの? お前がいれば」
「榛名虎太郎は阿呆なのか?」
「なんで俺が阿呆になるんだよ?」
「何度も言わせるな。私は働きたくないのだ。二度と冒険など御免だ!」
クリル・ククリアは怠け者である。そんな逸話が数多く残っている。
例えば彼女を付き従える為だけに、伝説の勇者アーサーは西に東に走り回されたのだという。
幼い頃に読み聞かされた勇者アーサーの冒険譚を想起して、虎太郎は確信した。
こいつは確かに、大賢者クリル・ククリアだ、と。
「でも、お前って勇者アカデミーの教員なんじゃないの?」
「阿呆。なぜ私がそんな面倒なことをしなければならないのだ? 私はアカデミーのただの役員だよ。仕事は特にない。いや、滅多にない。でも給料は毎月振り込まれる。どうだ? 羨ましいだろう?」
ふふん、と口端をつり上げるクリル。
「私の今の生活を守る為にも、榛名虎太郎の力が必要だったのだ。早急に、とは言わん。アカデミーで着実に力をつけて、信頼できる仲間を見つけて、私の貴族生活を脅かす魔王を殺してくれ」
「言われなくてもそのつもりだけど」
「で、だ。この島で暮らしていく上で心得ていて欲しいことがある」
クリルは細い人差し指を立てて、薄い唇を軽快に動かし始める。
「一つ。お前が魔王の落胤だということは秘密だ。バレると色々と面倒なことになる。無用な争いは避けるべきだろう?」
「元から公表するつもりなんてないよ」
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