ある青少年の追想

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「さ、ありあわせで申し訳ないけど、食べて」  どこがありあわせだ。食卓には三人分にしても十分すぎる量の料理が並べられていた。それも冷凍食品とかじゃなく、ばあさんの手作りだ。 「すみません、こんなに」 「いいのよ、これくらいしかおもてなしできないけど」  田舎の人は料理をたくさん出すことで客人をもてなす、聞いたことがある。それがどの地域の話で、どの文献で見たのか忘れてしまったが。 「いただきます」  俺は両手を合わせ、箸を手に取った。さすが田舎、というべきなのか、健康そうな取り合わせ。野菜はもちろん、メインディッシュは魚の煮つけだ。何の魚かはわからないけれど。  その、なんだかわからない魚を一口。 「……うまい」 「そう! それは、良かった」  ばあさんは本当に安堵したような笑顔を浮かべた。ほっとした、と言うのだろうか。心からうまいと言われたことを喜んでいるような。  ……何をアホな。この人は何十年料理してるっていうんだ。たかだか「おいしい」の一言に大袈裟じゃないのか。
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