道化師の思惑

27/36
前へ
/416ページ
次へ
ここで、武来の風は吹かない。 暴風のように吹き荒れていた風がやんだ。 「…お前さ、今日どうすんの?」 「…みんなが囃し立ててるからな。」 「うわ。やる気マンマン?」 「可哀想。俺。一人ぼっち。」 「バカ言え。それくらい賭けてんだよ。」 「プレッシャー。やめろ。」 今日勝てば、西側の優勝が決まりプレーオフ進出が決定する大事な試合。 集中力を高めるも、心の中にいるのはただ一人。 「…今ごろ勇は何してるかな。」 「…空をプカプカ浮いてるんじゃねぇ?」 「そう思う?」 「それか、直ぐ近くにいる。」 「…やべ。緊張してきた。」 「今ごろかよ!!」 時折思い出すあの笑顔。 共に過ごした思い出。 そのすべてを糧に突っ走ってきた。 "生きていて" "死なないで" 何度も繰り返した思い。 それは今でも脳裏に刻まれている。 あの日、広岡は事情聴取された。 救急車が呼ばれたのだから無理もない。 だが、直ぐに釈放となった。 あの日以来、一度も口を利かずにISNを辞めアメリカに飛んだ。 釈放となっても、俺は広岡を許すことは出来なかったから。
/416ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3607人が本棚に入れています
本棚に追加