*プロローグ*

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夢を見た。変な夢だった。高校の屋上で、男が女生徒を突き落とす夢だ。男の顔はよく確認出来なかったが、女生徒の方は美しい顔立ちをしていた。 その顔立ちは、誰かに似ていたが、思い出すことは出来なかった。 丘部青(おかべあお)は、憂鬱な気持ちのまま学校へと向かっていた。通学方法は自転車だ。自宅から青涼高校の距離はそう遠くない。青の自宅はアパートや一軒家が建ち並ぶ住宅街にある。滑り台やブランコが設置された広い公園ではよく、幼稚園や保育園に通う子供が大勢で遊んでいる。その公園を通り過ぎ、車などあまり通らない路上を、青は風を切りながら毎日自転車で走っているのだ。蝉が鳴いている。空は高く真っ青で、太陽は挑発的に青を照らしていた。 くそっ、夏は嫌いだ。 青の母親は短絡的な考えの持ち主で、八月に生まれたから“青”と名付けたのだそうだ。空が真っ青な、それこそ今日のような日に。 青はそんな母親が嫌いだった。何事も短絡的で楽観的な母親が大嫌いだった。 だがしかし、死んで欲しいだなんて思ったことは一度もなかった。 それなのに彼女は鬱病を患い、青の目の前でぐちゃぐちゃになって死んだ。 カンカンカンと鳴り響く鐘の音に構わず、遮断機を乗り越えて、電車に轢かれて死んだ。 青が小学六年生の時の出来事だった。やけに暑い夏の日だった。
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