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それは、まだ僕が中学生だったときの話。
*
秋も近い、けれどもまだまだ蝉の声が聞こえてきそうな夏の日だった。
「いつもより、着替えるのが遅いね。テツヤ」
そう言って、彼はロッカーの扉を開けた。
…他の部員達は、練習の後各自補習などに行ってしまっているので僕と赤司君しかいない。
そんな8月の終わり、二人きりの部室内では彼の声がいつもよりも大きく聞こえる。
ちなみに、彼に言われた通りに少しだけ、いつもよりも遅く着替えているのは理由があった。
赤司君は優しいから、僕に付き合って残っていてくれている…というよりは、ただキャプテンとしての仕事があったからに過ぎない。
…僕が残っているのは、彼に相談したいことがあるからなのに、それを口に出すのはなんとなく恥ずかしくて口を閉ざしてしまっている。
一言で言ってしまえば、宿題のことなんだが、内容が中学生男子には言いづらいのだ。
「…」
こちらをジッと見つめる彼の視線から逃げるように、目を背ける。
…その動作がかなり不自然なものであったのは、仕方なかったかもしれない。
そんなあまりにも不自然過ぎる僕の仕草を見て、赤司君は何か勘づいたのだろう。
ちょっとだけ笑って、僕に問いかけた。
「何か、俺に言いたいことがあるのかな?」
…やっぱり、僕のことなんてお見通しってことですか。
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