百合子

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僕は嫌な予感がした。 すぐに砂の城作りをやめて駆け出した。 一人の少女が道路に倒れていた。 後ろ姿でもわかる見慣れた服装。 車の運転手は若い男性で運転席から動けず震えていた。 僕は、一縷の望みをかけてその倒れている少女の顔が見える方向へまわった。 百合子ちゃんだった。 血に染まっている真っ赤な顔、上向いている眼球が僕を方を見ている気がする。 「どうして止めてくれなかったの?」 そんなふうに言われてる気がした。 僕はその場から逃げ出した。 その夜、両親から百合子ちゃんと遊んでいなかったか聞かれたが「知らない」とだけ答えた。 押し入れの中で血まみれになった顔で僕を見ていた百合子ちゃんの目を思い出し、震えて泣いていた。 「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」とつぶやいていたらしい。 百合子ちゃんの死から30年以上の月日が経っていた。 僕も大人になった。 時は、無情だ。 そんな出来事も時の流れにまかせていれば、いつのまにか自動的に洗い流してくれる。 微かな記憶はあった。 でも、自らの手で思い起こすようなことはなかった。 彼女に出会うまでは。
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