百合子

4/6
前へ
/6ページ
次へ
出会いは公園だった。 あの公園。 百合子ちゃんと遊んでいた公園。 仕事でミスをして公園のベンチ座り、落ち込んでいたときに彼女は声をかけてきた。 「幼い頃は、この公園でよく遊んでいたの」 「はぁ」適当に相槌をうった。今は誰とも喋りたくないと思っていた。 「でもそれが誰と遊んでいたか覚えてないの」 「そうなんですね」まだ、話は続くのかと思ったがなぜかこの女性のことが気になった。 「確かお城を作ったり、おままごとをして遊んでいたなぁ」 僕は何かを思い出していた。 「僕も小さい頃は、この公園で遊んでいたんですよ」 「えっ、そうなんですね。誰とですか?」彼女は聞いてきた。 「幼なじみの女の子です」 「もしかして私じゃないわよね」彼女は笑って言った。 「そうだったら奇跡の再会でしょうけど、違いますね。その女の子はもう亡くなっています」 「そうなんですね。残念だわ」 彼女はこの近所に住む僕と同じ地元の人だった。 年下の女性だった。 彼女の名前は『百合』と言った。 死んだ幼なじみの女の子は『百合子』だったがそのことにはふれなかった。 それから僕らは週に一回、この公園で会うようになっていた。 地元が一緒なので話も盛り上がり、いろんな話をした。 数回のデートを重ね、この公園で僕は告白し、百合とつきあうようになった。 百合は明るく、しっかり者で料理も上手だった。 この人なら一生の伴侶にしてもいいと思った。 百合と出会い、つきあってから1年後に百合にプロポーズをした。 この公園で。 あらかじめ砂の城と見立てた山を作り、その中に指輪を入れた箱を砂の城の中に入れた。 子供に見つかって持っていかれたら困るので夕方、子供たちがいなくなってから指輪を隠した。 夕暮れの中、僕は百合に想いを伝えた。 プロポーズの言葉はシンプルだった。 結果は……。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加