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「ほんと。それ全然笑えない。ほかを当たろう」
「ま、そうだよね」
扉の前を通り過ぎ別の場所に移動しようとしたときだった。背後から扉の開く音がなった。音に驚き僕と裕也は扉の方に振り向き凝視する。すると若い男が一人出てきた。
「卓、也・・・?」
「え?」
驚き隣にいる裕也を見る。裕也は目を見開き目の前の男を凝視している。
「裕也、か?」
男も裕也と同じように驚きを隠せないでいた。裕也は男の方に歩を進める。僕はとっさに裕也の腕をつかみ歩みをとめさせた。
「待て裕也!何かある、気をつけ「龍!」」
裕也の怒鳴り声なんて初めて聞いた気がした。
「卓也は僕のお兄ちゃんなんだよ!」
「で、でもっ」
「本当に裕也なの?会いたかった・・・」
「卓也・・・」
目を潤ます卓也を見て裕也は僕の手を振りほどいた。その時に裕也に嫌われてでも止めればよかったのかもしれない。だけどその時の僕は裕也に怒鳴られたことがショックで、これ以上引き留めると裕也に嫌われるんじゃないかとか自分の勘違いなんじゃないかとかそんなことばかり考えていた。裕也と卓也の接触をただただ呆然と眺めていた。
そして・・・
裕也が倒れるのも呆然と眺めていた。
「ゆ、裕也!!!」
一気に裕也との距離を狭め倒れている裕也の体を少し起こそうとした。すると腹部から大量の血が流れ出した。
バチンッッ
自分の体に張ってあったバリアが何かに反応した。
「チッ」
背後から男の声が聞こえる。裕也にまだ息があることを確かめてから壁にもたれさせるように運んだ。
「お前は俺の正体に気付いてるようだったな。俺を信じるなんてあいつもバカだな」
「黙れよ・・・」
卓也をにらみつける。卓也はにやにやと笑っている。もっと強く裕也を止めていれば・・・
あいつを見た瞬間から感じていたはず。奥底に眠る深い憎悪に。
「ど、どう、し、て・・・」
裕也が苦しそうに顔をゆがめながら卓也のほうを見る。僕が不甲斐ないばかりに。いつも笑顔しか見せない龍の悲痛を懲らしめる顔はみていられなかった。
「なんだ、まだ生きてたのか。どうして、ねー教えてやろうか。お前はあの変な奴に連れ去られて幸せそうだよなぁ俺はな!お前がいなくなってから人体実験のようなことをされ続けてきたんだ!!!」
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