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暗く重たげな葉が生い茂り、月明かりの青白さだけが不気味だつ森林。
そんな森林から女の叫び声が聞こえてきた。
「ケンちゃん――なんで? なんでなの?!」
激しく動揺する女は全身から出せるだけの声で彼に訴えていた。
だが、言葉のカーテンがかかっているのか、はたまたその声は届いていないのか、男は女に向かってケラケラと笑っていた。
「こんなのケンちゃんじゃない、おかしいよ……」
女はただ震えることしかできなかった。まるで、焼かれる前の魚のような面だ。
男は女の哀れな顔に満面の笑みを浮かべ、こう言い放った。
「ケンちゃん? あーこのクソ野郎の体か。あー私の〝ぎしき〟は成功したのね……快感だわ!! やっと殺せるのね。あのムカつく奴らを」
女はただ、きょとんとすることしかできなかった。考えようとしても目の前の恐怖で思考が停止していたからだった。
「あらら、怖い? 怖いの? 良い顔ね、たまらないわその顔。あんたはこいつが死ぬ為のオマケね。じゃあね、バイバイ」
女の断末魔の叫びがうっそうと生い茂る森林に、ただただ響き渡るだけであった。
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