第1章

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「私が通ってる塾の先生」 琴美が、私の耳元で言った。 よく、琴美の口から先生がイケメンだとか、優しいとかいう話は聞いていた。でも、まさかキスをしたなんて思わなくて私は驚いた。 「そうなの?」 「うん…なんか、ヤケクソで」 ヤケクソ…? 私は首を捻る。 「あっ、なんでもない!」 琴美が顔の前で慌てて手を振る。 何がヤケクソだったんだろう。気になる。 「ねぇ―――」 ヤケクソってどういう意味――そう聞こうとしたそのとき、チャイムが鳴った。 琴美が勝ち誇ったような顔で、私の前の席から、後ろの席に移動する。 私は後ろを振り返った。 「さっきの話、本当?」 「さっき、って?」 僅かに、琴美の頬が赤く染まる。 「奢ってくれるって話」 「…ホント」
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