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先程まで見せていた狂った笑みは既に引っ込み、額に滲む汗と同時に顔色が青ざめるネクロ。心無しか肩も震えていた。
「……な、なんだこれは」
「おいクソ貴族。ワシらが可愛がってる坊主に物騒なモン向けてんじゃねぇよ」
ネクロとルークが振り返るとそこには、右手にコーヒーカップを持つマスターの姿が。
何時も穏やかな瞳は転じ、獲物を前にした肉食獣のような双眸でネクロを睨んでいた。
「ここまでの殺気……。貴様まさか……?」
ガタッと立ち上がり、震える唇を動かした。
「あぁ? なんだ若僧。ワシのこと知ってんのか?」
手に持つカップに口を付け、ズズッと一口。その瞳は値踏みするような眼差しに変わっていた。
「まさかマスターって有名人なわけ?」
「有名なんてもんじゃない! 僕達“魔法使い”に知らない奴は居ない。【不死の体現者】を魔石に持つ最強と謳われる魔法使いだ……!」
顔色こそ若干戻るネクロだが、額の脂汗は一向に引いていなかった。
自身の右手に淡く光る褐色の魔力を纏わせる。
「辞めときな。オメェじゃワシ処かそこの坊主にも勝てねぇよ。それに一般市民が近くに居るんだ、ドンパチしたかねぇ」
鼻で一蹴。またも一口珈琲を啜り、言い放った。
ネクロはルークを見て驚くが、素直に魔力を霧散させる。
「んまあ、ネクロさん。今日は俺に話があったんだろ? 何もしないって言うなら話くらい聞くから」
ルークは何もなかったかのように椅子へ腰掛ける。それを見届けたマスターもカウンターへと踵を返した。
続き、ネクロも些か冷静になったらしく、長い溜め息を溢すと椅子に腰掛けた。
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