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がむしゃらに走る。真夏のお日様はとうに沈みこみ、辺りはシンとした暗闇が立ち込めている。しかし、駆ける。例え小石に躓こうがそこら中にある小枝に身を傷付けようが――
「あれ?」
彼――齢十といった所であろうか。暗闇に熔けるような、それでいて艶のある黒髪。
少年にはそろそろ寝る時間だったのだろう、服装は寝巻きだ。
息を切らし、靴を汚し。必死に鬱蒼と木々が生い茂る森を駆け抜け、視界が拓けると其処は。
「キレイだなあ」
月明かりが反射する、湖だった。湖に立つ大きな岩。周りに拡がる針葉樹。
村の少し外れにある、有名なスポットであった。昼間は子供たちの遊び場となるちょっとした観光名所のようなもの。
「さっきの光は見間違えたのかな……」
小さな身体で森を駆け、行き着く先には何もない。傷も出来た。肉体的疲労に加え、期待を裏切られた精神的疲労は少年をぺたん、と座らせるのには充分だ。
彼は見たのだ。眠りに就こうとベッドに腰を掛け、ふと見上げた天窓に。
紫光を纏い浮遊する球体が。
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