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「ななな、なんでですかっ!?」
先程の悲痛な表情は打って変わり、驚愕を顔に貼り付けて。
穏やかだったこの空間に、縦横無尽な強風が吹いてきた。
月明かりに鈍く反射する、風によって乱れた長い銀髪を抑えもせず真剣に少年を見ていた。
「言ったでしょ? セレナは隠し事が下手っぴなの。毎回夜に、若い女の人は此処に来ないよ。それにボクが言った紫色の玉は多分、セレナなんでしょ?」
ダークブラウンの瞳が翡翠の瞳を射る。静かに瞼を閉じ、そのまま顔を真っ直ぐにずらして少年は続けた。
「最初は勿論わからなかった。でもね、前にセレナが遅れて来た時、少しだけ紫色の光がセレナに纏わりついて見えたんだ」
綺麗な艶のある黒髪を風が嬲り、過ぎて行く。やはりそれも抑えず、されるがままだった。セレナは始めこそ眼を見開き、驚愕するしかなかった。
しかし、思い返してみれば。
この右側に腰掛ける少年は本来の年齢よりも遥かに観察眼や思考力がずば抜けているのだ。
ふ、と微笑み目尻に溜めた涙を人差し指で拭うと、またも悲しそうな表情に変わる。
「私のこと嫌いになりました?」
「それなら此処に来ないよ」
「魔法なんて信じます?」
「実際に見てないから何とも」
クスッと笑いそりゃそうだね、と。
続いて立ち上がり、少年を見下ろして。
「えっへん!それならば私の真の力を見せてやろう!」
何故かふんぞり返りながら良い放ったのだった。
それはもう。色々と台無しだった――
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