1.望め。

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空腹だった少年は、二人の男が部屋を出ていってまもなく食事をたいらげてしまった。 空になった食器をベッドの隣にある小さなテーブルに置き、少年はベッドから出て窓辺に移動した。 「ここは迷宮の森の中…?」 カーテンを開けると何本もの大木が窓の外に並んでいた。 木々の隙間から僅かな日の光が少年の顔に注がれる。 「おや、もう食べ終えたのですか?」 後ろから聞こえた声に少年は驚いた。 部屋の入り口には先程の眼鏡の男が、今度は一人で立っていた。 「驚かせてしまいましたね。ごめんなさい。」 男は開けたドアを静かに閉めると、部屋の中へと足を進めた。 「あの、ここは…、どこなんですか?」 少年が尋ねると、男はふわりと優しく微笑み、静かに話し始めた。 「この深い森の中で何かを探し当てるのは、物凄く困難なことでしょう。」 男は少年の隣まで歩み寄ると、窓の外を遠い眼差しで見つめながら言った。 「大したものです。貴方のような少年が、五日も飲まず食わずでこの森の中を歩き回るとは……。さぞかし、深い理由があるのでしょう?」 男は少年を見つめ、うっすらと微笑んだ。 「…この森のどこかに、仇を射ってくれるという人達がいると聞いたことがあるんです…。」 少年は、蚊の鳴くような小さな声で男の問いかけに答えた。 「ほう…。」 「大事なものを失ったんです。」 少年はぎりりと下唇を噛み締めた。 「貴方は奪っていった者達を、どうしたいのです?」 「……。」 真っ直ぐに自分に注がれる男の視線に、少年はぞっとした。 この森のように暗く黒く染まった瞳に、少年は吸い込まれそうな気がした。 「恨んでも…、憎んでも…、どうしようもないんです。でも…。」 「でも…?」 少年はこの先の言葉を口にするのを躊躇う。 少年と男の間に暫しの沈黙が流れる。 その間自分の足元を見つめていた少年は、何かを決心したように男の方へ向き直った。 「僕の大切なものが感じた苦痛を奴らにも与えてやりたいんです。」 男は少年の言葉を聞いて、ふわりと微笑むと、右手をドアの方に向けた。 「では…、こちらへ…。」
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