『紫陽花』あじさい

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しとしとと降り続く雨。 『五月雨』と書いて『さみだれ』。 6月、この梅雨の時期に使われる言葉だが、なぜ『六月雨』ではないのだろう? そんなことを考えていると、 「ごめん!遅れた」 そう言って、友人の葉子が駆け寄ってきた。 「いいよ。遅れたっていっても、15分くらいだし」 私がそう言うと、葉子はほうっと息を吐き出し、 「アンタはいつも寛大で助かるわ」 と、笑みを浮かべた。 寛大……なのかな? よくわからない。 私が首をかしげていると、 「さあ、遅れた分とりもどさなきゃ。行くよ!」 そう言って、花模様が描かれた傘をバンっと開く。 「あれ? 傘変えたの? 前は真っ赤なやつだったよね?」 と私が聞くと、 「ああ、あれ? 前の男と別れるときに殴り付けたら、壊れた」 「また別れたの?」 私が驚いて聞くと、 「仕方ないじゃない。自分の趣味ばっかり押しつけてくるんだもん」 と、さらっと答える。 ああ、そう。別にいいけど……。 葉子は昔から男性に人気があり、今まで何人もの相手と付き合ってきた。 でも長続きはしないようだった。
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