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二人並んで歩いていると、一軒の花屋が見えてきた。
店先には、色とりどりの花が並んでいる。
その一画に、見事な紫陽花がバケツいっぱいに花を咲かせていた。
「わあ、紫陽花」
「キレイね」
花によっては、赤っぽいものや青みがかったものなど、色々ある。
「知ってる? 紫陽花ってね、土壌の質によって色が変わるのよ?」
「へえ~、そうなの?」
「アルカリ性だと赤、酸性だと青になるのよ」
「じゃあ、リトマス試験紙の逆だね」
「リトマス試験紙って何?」
「えっ? 理科の授業で習ったでしょ?」
「そうだっけ? 忘れた」
おいおい……。
でも、と思い出す。
確か葉子は、理科の成績があまり良くなかった。
「だいたい、実験で酸素とか作ったって、日常生活で何の役にたつのよ?」とか言っていた。
「でも、よく知ってたねそんなこと」
と私が言うと、
「今の彼が詳しいのよ、花のこと。それでね」
と、ちょっと微笑んでみせる。
新しい彼氏の影響で、葉子も詳しくなったということらしい。
「へえ、あの葉子がねえ~」
「な、なによ。私だってね、男が変われば変わるのよ」
「紫陽花みたいに?」
「そう、私は紫陽花なのよ」
そう言う葉子の顔は、本当に嬉しそうだった。
「だから、アンタも早く探しなさい。自分の色を変えてくれる相手を」
「そのうちね」
私は笑って誤魔化す。
私にもいつか現れるだろうか?
紫陽花のように花の色を変えてくれる人が……。
――おわり――
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