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ザワッと、カイルの肌が粟立つ。
青い瞳は見開かれ歪み、脚が自然と後ろに下がる。
悟られた。
しかもよりにもよって、自分が恋心を抱いている娘(むすめ)に。
「ねぇ…どうなの?」
真っ赤な…血のように赤い瞳。
あの時と変わらない、森で偶然彼女の姿を見つけた時、自分に向けられた、自分の心を奪った、深く赤い…処女(おとめ)の血のような、清らかな瞳。
ゴクリと息をのむ音が、カイルの中に響く。
出来るなら、今すぐこの場で抱き締めて、血を飲み干したい。
本能のままに、彼女を手に入れてしまいたい。
しかし、それは同時にアーシャの死を意味する。
愛する者を殺す。
神はなんと酷い仕打ちを自分に課すのか。
涙が目蓋から押し上がり、溢れた。
頬を伝う涙は、アーシャに答えを告げずとも充分な理由になった。
「あなた、湖のお城の吸血鬼ね?」
「…違う。俺はカイル…カイル・リンド。」
最早抗う力など無かった。
跪くように目の前に項垂れるカイルの肩に、アーシャはそっと手を置くと、その身体に身を任せる。
柔らかな女の感触に驚くカイルに、更にアーシャは信じられない言葉を口にする。
「拐って…お願い…カイル…」
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