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「アーシャ…」
フッと、カイルの瞳に暗い影が落ちる。
――求められて死にたい。
その言葉は、カイルのギリギリな理性の箍(たが)を外すには充分過ぎる言葉だった。
無防備なアーシャの項に顔を沈める。
「カイル…私、幸せよ。愛してる…」
もっと深くと、アーシャの手がカイルの頭を項の奥へ誘う。
そうして、カイルがいよいよ、甘ったるく絹のようなアーシャの肌を切り裂こうとした時だった。
「アーシャッ!!!!」
突然響いた男の声。
同時に、カイルの背中に熱湯を浴びせられた強い痛みが走る。
「ルーク?!」
声の主を、アーシャは知っていた。
エルブラードの街の議事『ルーク・メソッド』
修道院によく寄付やボランティアをしてくれている、いわば敬虔(けいけん)なクリスチャンだ。
彼が手にしていたのは、聖堂に置いていたはずの聖水の小瓶(こびん)。
「アーシャッ!こっちに来るんだっ!」
肩を押さえて苦悶するカイルを気遣うアーシャに、ルークががなる。
それでも、アーシャの瞳はルークではなくカイルに向けられていた。
「カイル…ねぇカイル。しっかりして…」
「あっ、アーシャ…」
ジリジリと背中を焼き続ける聖水の力に、やはり自分は人外…愛するアーシャとは違う世界の人間なのだと知らしめられているようで、悔しくて、切なくて。
「アーシャッ!」
叫ぶルークの声が、カイルにはこう聞こえた。
―――お前にアーシャは渡さない。
「そうか…」
「カイル?」
不思議そうに自分を見るアーシャを今一度強く抱き締めた後、カイルは彼女を突き放し、脱兎の如く森へと駆けて行ったのでした。
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