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「私は…」
「いい話じゃないか。アーシャ。」
「ロザーナ様?!」
不意に背後から聞こえた声にアーシャは瞬きました。
当然です。先程までベッドで眠っていたロザーナが、杖を付き覚束ない足取りでこちらにやってきていたのですから。
アーシャは慌ててルークの腕から飛び出し、ロザーナに寄り添う。
「ロザーナ様。お身体は…」
「大丈夫だよ。それより、外が騒がしいから出てきてみれば、素晴らしい話じゃないかい。」
「でも、私には神様が…」
「神様にお仕えすることなら、ルークのようにボランティアをすれば良い。ねぇアーシャ、これは神様がお前に下さった幸運なんだよ?」
「でも…」
「トリーシャは不幸な事になったそうだけど、ルークと一緒になれば、もう吸血鬼に怯える事もないんだよ?」
「……ロザーナ様…」
ルークや街の人間達ならいざ知らず、ロザーナは今まで自分を育ててくれた、言わば親代わり。
強く反対できないアーシャの態度を良いことに、周りの人間はあれよあれよと可能の黒髪を金色に染め、ルークとの婚礼の準備を始めたのです。
めでたいめでたいと笑う街の人間の喜びとは裏腹に、アーシャは毎日泣き暮れていました。
ルークに婚前交渉を迫られても頑なに拒み、ずっと清らかな処女(おとめ)のまま、あの青い吸血鬼が…カイルが自分を拐いに来てくれるのを、待ちわびていました。
―――しかし、時は無情にも過ぎて行き、いよいよ、ルークとアーシャの結婚式の日がやってきたのです。
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