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湖上の城の大広間。
昼でも真っ暗闇の室内で、男は今日も密やかに、目の前の…白亜のマリア像に祈りを捧げていました。
男の髪と瞳は、夜空のように深い青色で、剣(つるぎ)のように鋭い牙が口角の両端から覗き、白いシャツの合わせの間からは、ぞっとするほど白い肌に整いすぎた顔立ちは、どこか普通の人間とは違う雰囲気を醸し出していました。
彼の名前はカイル・リンド。
産まれた時からこの屋敷に独りで住まい…いや、この城に閉じ込められ、既に気の遠くなる年月を1人孤独に過ごしていました。
カイルには、自分と同じ鋭い牙と青色の髪と瞳を持った父親がいました。
その父が言うには、自分達は『リンドの民』と言う呪われた一族だと言うこと。
リンドの民は、聖書の書かれている『ノアの方舟』…神々の起こした大洪水により、その殆どが粛清されたと言うこと。
肉も魚も野菜も食さないリンドの民が、何故そうなったかと、利発なカイルが父に尋ねた時、彼はその答えに我が身を呪った。
何故なら、リンドの民は他の何物でもない、人間の生き血を糧(かて)とする吸血種族だったのです。
故に、人の生命を喰らうなど言語道断と神々の怒りを買い、リンドの民は難を逃れたカイルとその父を残して、絶えてしまいました。
それからずっと、カイルは目の前に佇む聖母に、祈りを捧げているのです。
たった一人になってしまったたリンドの民を、忌まわしい呪いを解いて欲しいと。
顔も知らない仲間達の罪を背負う代わりに、この牙を落としてくれと。
日差しの下に出ても、十字架を見ても苦しまない、普通の男の身体を、与えて給(たも)うと。
毎日のように、祈っていました。
何故なら彼は、恋をしてしまったから。
エルブラードの修道院に住む、アーシャと言うシスターに。
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