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アーシャには肉親はいませんでした。
幼い頃エルブラードのあるサハリン王国とメルテ王国の間で戦争があり、アーシャの両親はその戦火に呑まれ、命を落としました。
傷だらけの体で、エルブラードの街の近くで泣いていた彼女を哀れと引き取ったのが、エルブラード修道院の院長ロザーナ。
しかし、街の人間はアーシャにあまり友好的ではありませんでした。
金髪碧眼が当たり前のサハリン人の中で、黒い髪に赤い瞳のアーシャは、奇異な存在でしかなかったのです。
『わたしは、なにもしていないのに…』
項垂(うなだ)れるアーシャの頭を優しく撫でるロザーナ。
無理もありません。
サハリン人は単一民族…サハリン王国には自分達だけが住む資格があるのだと言う考えを持っていた為、金髪碧眼以外の人間がこの土地にいることが、許せなかったのです。
それでもロザーナは彼女に暖かい愛情と、神に仕える道を説きました。
素直なアーシャは、ロザーナの言葉を従順に守り、清らかな処女(おとめ)のまま、毎日を倹しく清貧に暮らしていました。
そんなある日でした。
アーシャの前に、青い影を纏った男が現れたのは。
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