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カイルが拒んでいても、リンドの民の呪いは、彼の本能に深く根付いていました。
自分を照らすものがない漆黒の新月の夜。
自我を失ったカイルは城を抜け出し、森を駆け、エルブラードの街へと姿を現したのです。
――清らかな処女の血を求めて。
それでも、家のあちこちには銀の十字架が掲げられ、カイルは中に入る事ができません。
もう帰ろう。
俺は誰も傷付けたくない。
聖母が己の望みを叶えてくれないのならば、あの城の中で、1人で朽ちていくのだ。
そう心で強く叫んでも、カイルの本能は血を求めて街をさ迷い、結局彼は、病気の子供を抱えて夜道を急ぎ歩く若い女の生き血を奪いました。
女の匂いではなく、女が抱いていた赤ん坊に引き寄せられたのですが、赤ん坊は病に侵されていたので難を逃れ、カイルの本能は変わりにとばかりに、その母親の項に牙を突き立てました。
処女の生き血に比べれば味は薄かったけれど、全身に巡る快楽はそれと同じ。
言葉にし難い恍惚感が体から沸き上がってくるのを感じ、涙を流すカイル。
あぁ…やはり自分は、この呪いから逃げることなどできないのか。
血にまみれた口と涙を服の袖で乱暴に拭うと、カイルは赤ん坊を抱き上げ、エルブラード修道院へと飛んだ。
せめて、母親を奪った罪を贖いたい。
どうか聖母よ。
この子供を救い給え。
そう祈るような想いを胸に秘めて、カイルは向かったのです。
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